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東京工業大学 黒澤研究室

高品位音声信号伝送を実現するデバイス及びシステムの研究

概要

高品位な音響再生システムを実現する為,信号増幅・伝送システムの高品位化を実現する要素技術とシステム構築技術について研究を行っている。抵抗器,コンデンサ,ケーブルなどの受動素子の電気信号伝達特性について高精度な計測手法を開発し,受動素子における歪み発生について明らかにしていくことを目指している。また,低歪みな受動素子の要件を明らかにする必要がある。さらに,信号増幅・伝送システムとして高品位伝達特性を実現するシステム構築方法について研究を行い,高品位な信号増幅・伝送システムを実現していく。

目的と背景

デジタル技術の進展により,元となる音響信号の精度と品位は著しく向上している。また,デジタル信号の加工により高い臨場感を実現する技術も著しく進歩してきている。一方で,アナログである音そのものについては,評価手法が何十年も変わらず,その品位は進歩せず停滞を極めている。本研究では,音の品位を劣化させている要因と状況を探るため,受動素子の応答特性を探ることから始め,システムとしての応答を評価する手法を明らかにする研究の第一歩として信号の高精度な計測による歪みの発生状況について検討を行っている。

研究内容

1. 抵抗器の歪み解析とシステム

抵抗器単体での歪みを解析するため,計測方法の検討,歪みの測定,歪みの発生要因について検討を行い,システムへの影響を評価している。

図1 抵抗器の歪み測定回路。ブリッジ回路構成とすることで元信号をキャンセルし歪み成分のみを取り出せる。DUTとリファレンス素子の配置は対辺とする構成もある。
図1 抵抗器の歪み測定回路

ブリッジ回路構成とすることで元信号をキャンセルし歪み成分のみを取り出せる。DUTとリファレンス素子の配置は対辺とする構成もある。

図2 試作した抵抗器の歪み測定回路基板。素子を交換しやすいように端子台に抵抗器を設置する構造�としている。
図2 試作した抵抗器の歪み測定回路基板

素子を交換しやすいように端子台に抵抗器を設置する構造としている。


図3 ブリッジ回路からの出力波形の例。炭素組成抵抗器0.25W型(左)と0.5W型(中),金属被膜抵抗器0.5W型(右)。
図3 ブリッジ回路からの出力波形の例

炭素組成抵抗器0.25W型(左)と0.5W型(中),金属被膜抵抗器0.5W型(右)


図4 カーボン被膜抵抗器の相互変調歪み率。1kHz+1.1kHzの信号を1:1で入力した場合の測定結果。
図4 カーボン被膜抵抗器の相互変調歪み率

1kHz+1.1kHzの信号を1:1で入力した場合の測定結果。

図5 抵抗器で発生した歪みの位相特性測定結果。炭素組成抵抗器と炭素皮膜抵抗器(ともに0.25W型1kΩ)。
図5 抵抗器で発生した歪みの位相特性測定結果

炭素組成抵抗器と炭素皮膜抵抗器(ともに0.25W型1kΩ)。


図6 抵抗値変動のモデルとシミュレーション回路
図6 抵抗値変動のモデルとシミュレーション回路

図7 図6モデルでのシミュレーション結果。1/fゆらぎをランダムウォークモデルで考察。
図7 図6モデルでのシミュレーション結果

1/fゆらぎをランダムウォークモデルで考察

2. コンデンサの歪み解析とシステム

コンデンサ単体での歪みを解析するため,計測方法の検討,歪みの測定,歪みの発生要因について検討を行い,システムへの影響を評価している。

図8 コンデンサの歪み測定に用いた回路。ブリッジ回路を被測定コンデンサとリファレンス素子で構成して歪み信号を取り出している。
図8 コンデンサの歪み測定に用いた回路

ブリッジ回路を被測定コンデンサとリファレンス素子で構成して歪み信号を取り出している。

図9 測定結果。フィルムコンだけではほとんど歪みを検知していないが,電解コンとでは大きな2次,3次歪みが出ている。
図9 測定結果

フィルムコンだけではほとんど歪みを検知していないが,電解コンとでは大きな2次,3次歪みが出ている。

3. ケーブルの歪み解析とシステム

ケーブルでの歪みを解析するため,計測方法の検討,歪みの測定,歪みの発生要因について検討を行い,システムへの影響を評価している。

図10 ツイストペア構造によりブリッジ回路を構成したケーブル測定回路。差動回路とシールド処理により外乱ノイズの影響はごく僅かで高感度計測が可能。
図10 ツイストペア構造によりブリッジ回路を構成したケーブル測定回路

差動回路とシールド処理により外乱ノイズの影響はごく僅かで高感度計測が可能。

図11 メッキなし撚線と錫メッキ単線による歪み信号の電流依存測定結果
図11 メッキなし撚線と錫メッキ単線による歪み信号の電流依存測定結果

展望

現在,スピーカーから出てくる音は,ひどく歪みっぽくなんらかの劣化を受けた音となっている。これは,どんなに高級と言われるオーディオ装置でも,電車の中の案内放送でも,同じ傾向の歪みの影響を受けている。音量の大きなPAシステムを用いたコンサートや映画館ではより顕著な歪みの傾向がある。
本研究課題では,こういった,あらゆる電気音響システムの音質評価基準を明らかにすることで,高品位化を実現するものである。デジタル技術の進展により,元となる音響信号の精度と品位は著しく向上している。また,デジタル信号の加工により高い臨場感を実現する技術も著しく進歩してきている。一方で,アナログである音そのものについては,評価手法が何10年も変わらず,その品位は進歩せず停滞を極めている。
本研究では,音の品位を劣化させている要因と状況を探るため,受動素子の応答特性を探ることから始め,システムとしての応答を評価する手法を明らかにする研究の第一歩として信号の高精度な計測による歪みの発生状況について検討を行っている。

発表論文等

  1. 宮岡洋平, 黒澤実 ”抵抗器における高調波歪み測定方法の検討,” 電子情報通信学会,信学技報, EA2019-16, pp.83-86, (2019-07).
  2. 宮岡洋平, 黒澤実 ”抵抗器における高調波歪み率とワット数の関係についての検討,” 日本音響学会2019年秋季研究発表会講演論文集, pp. 211-212, Aug. 2019.
  3. Y. Miyaoka, M. K. Kurosawa, "Measurements of Current Noise and Distortion in Resistors," Proceedings of the 23rd International Congress on Acoustics, Aachen, Germany, pp. 3120-3125, Sep. 2019.
  4. 宮岡洋平, 黒澤実. 抵抗器における歪み測定方法の検討―位相特性を考慮した評価―, 日本音響学会2020年春季研究発表会講演論文集, pp. 235-236, Mar. 2020.
  5. 庄司晃太, 折野裕一郎, 宮岡洋平, 黒澤実. アルミ電解キャパシタの高調波歪み測定方法に関する基礎的検討, 日本音響学会2021年春季研究発表会講演論文集, pp. 277-278, Mar. 2021.
  6. 宮岡洋平, 折野裕一郎, 黒澤実. 抵抗器における抵抗値変動が音響信号に与える影響の検討,日本音響学会2021年春季研究発表会講演論文集, pp. 283-284, Mar. 2021.
  7. 杉山公洋, 宮岡洋平, 折野裕一郎, 黒澤実. ブリッジ回路を用いたケーブルでの相互変調歪み測定方法の検討, 日本音響学会2021年春季研究発表会講演論文集, pp. 297-298, Mar. 2021.